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心の時空

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サクリファイス  シネマの世界<第536話>

a0212807_23144731.jpgロシア(旧ソ連)の天才映画監督アンドレイ・タルコフスキー(1932~1986 享年54歳)最期の作品(1986年5月)が、映像叙事詩「サクリファイス」(Sacrifice 犠牲)です。
1983年作品「ノスタルジア」では、イタリアのトスカーナを舞台に‘詩人タルコフスキー’の映像詩が、綴られました。
それから3年、1986年遺作となった「サクリファイス」は、スウェーデンのゴトランド島が、映画の舞台です。
タルコフスキー監督を支えたのが、イングマール・ベルイマン監督作品を多く撮った名撮影監督スヴェン・ニクヴィスト(1922~2006)、製作を担ったカティンカ・ファラゴー(1940~)、美術監督アンナ・アスプ(1946~)たちです。
「サクリファイス」は、カンヌ国際映画祭史上初の審査員特別賞(グランプリ)など4つの賞を受賞しました。
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タルコフスキー監督は、新作に入る前に、必ず黒澤明監督作品「七人の侍」溝口健二監督作品「雨月物語」を見ていたそうで「サクリファイス」には、日本に関わることが、いろいろ登場します。
a0212807_2317040.jpg映画のプロットもシュールにしてリアル、夢と現実さらに夢から夢ヘの話が、宗教的、哲学的な精神世界に入るかと思いきや政治的になりさらに映画は、文学的、芸術的な展開をしていき、「映像の詩人」タルコフスキー監督の面目躍如です。
アンドリュー・ワイエスの絵(こちら)を映像にしたような叙情的な自然描写が、とても美しく、黒澤監督は、1975年作品「デルス・ウザーラ」以来親交a0212807_2319325.jpgのあるタルコフスキー監督を「タルコフスキーは、難解ではない。彼の感性が、鋭すぎるだけだ。」と評し讃えています。
プロットは、ロンドンでのシェイクスピア劇の名優としての名声を捨てスウェーデンの辺鄙なゴトランド島に移住した主人公のアレクサンデルとその家族(不仲な妻、年ごろの娘、ノドの手術で話せない息子)そして家族を取り巻く(郵便配達の村人、医者、家政婦)物語です。
a0212807_23473440.png映画の冒頭、主人公のアレクサンデル(スウェーデンの名優エルランド・ヨセフソン 1923~2012 1973年「ある結婚の風景」)は、自分の前世を日本人と考えており(紋付着物をいつも羽織っている)、自分の誕生日にノドの手術で声の出ない息子と枯れた日本の木(松)を一緒に植え、枯れた木に3年間水をやり続けて甦らせa0212807_23503259.jpgた禅僧の話を息子にします。
アレクサンデルは、生命再生の木を植えたその日、テレビの臨時ニュースで、スウェーデン首相の核戦争勃発と非常事態宣言を聞き、日ごろの冷静さを失いました。
彼は、それまで言葉だけを信じる無神論者(無宗教)でしたが、次第に狂気と幻覚に翻弄され自分の持てるものすべてサクリファィス(犠牲)として神に捧げることを誓い愛する家族や大切な人たちの救済を求めました。
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ニクヴィスト撮影監督の技巧的なカメラの長回しと海堂道宗祖(わたづみどうそ 1911~1992)の吹く法竹(尺八=1尺8寸 54.5㌢ 地漆加工に対し法竹は3尺 90㌢ 生地のまま太長)の音色が、コラボレーションした幽玄にして
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幻想的な世界は、タルコフスキー監督の最期の演出に相応しい最高の映像詩と言えるでしょう。
「サクリファィス」のサウンドトラック、バッハのマタイ受難曲アリア「憐れみ給え、わが神よ」を歌うハンガリーの
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オペラ歌手ユリア・ハマリ(1942~)の哀切なソプラノにも聴き入りました。
映画最後のシークエンスにアレクサンデルは、自分を迎えに来た精神病院の車に乗る前に愛する家族や大切a0212807_23585234.gifな人たちを救ってくれた‘神’との約束を守るため自ら家(自宅)に火をつけ全焼させます。
そのシーンの撮影中にカメラが、トラブルを起こしストップしたため家のセットを初めからすべて作り直して再撮影したのだとか、タルコフスキー監督の映像へのこだわりは、水だけではなく火にもあることが、家の焼け落ちる長回しのシーンを見ていると良く分かります。

(左写真:撮影の休憩時間に息子役の少年を肩車にして散歩するタルコフスキー監督)
by blues_rock | 2015-12-01 00:01 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)