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心の時空

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恋人たち  シネマの世界<第534話>

現在、福岡市天神のKBCシネマで公開中の「恋人たち」は、日本映画の名監督、橋口亮輔監督(1962~)が、2008年に発表した秀作映画「ぐるりのこと。」以来じつに7年ぶりの新作映画です。
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橋口監督は、映画にしか表現できない創造性(オリジナリティ)のある質の高い映画を制作できる数少ない映像作家で、自分の撮る映画の細部(ディテール)まで徹底してこだわる生粋の映画人です。
a0212807_20354968.jpg新作の「恋人たち」も前作「ぐるりのこと。」と同様、橋口監督(左写真)は、自分で原作と脚本を書き監督(名演出家)さらに編集も行なっています。
橋口監督のすばらしさは、自らオーディションで選んだ新人俳優たちの特長を生かし、その素人っぽさを個性とするために各シーンに繊細な演出を行ないながら俳優たちの役柄に合わせたオリジナル脚本としたことです。
a0212807_20375975.jpg橋口監督の全作品を撮影した撮影監督 上野彰吾(1960~)の存在も大きく、橋口監督の撮りたい映画のイメージをすべて自家薬籠中のものとして理解し撮影カメラを回していることです。
その撮影カメラは、映画に登場する三人の主人公に寄り添うようにして彼ら一人一人の心中(人間の感情)を捉えています。 (上写真:2008年映画「ぐるりのこと。」 主演した木村多江とリリー・フランキー)
a0212807_2040673.jpg「恋人たち」で特筆すべきは、やはり何といっても橋口監督の卓越した演出のすばらしさです。
橋梁点検員のアツシ(篠原篤 1983~)は、3年前に精神異常者の通り魔殺人で突然愛する妻を奪われた喪失感と理不尽な現実を受け入れられず苦悩、そのやり場のない自分の気持ちを諌めるため犯人の家族に対し裁判をする準備に奔走していました。
a0212807_20434911.jpg弁当屋で働く中年主婦の瞳子(成嶋瞳子 1973~)は、セックスする時以外自分に関心を示さない夫と邪険な姑との平凡な暮しに突如現れた得体の知れない男(光石研 1961~)のやさしい言動に心が、ときめきました。
大きな弁護士事務所で働くエリート意識の強い弁護士の四ノ宮(池田良 1978~)は、同性愛者で高級マンションに同棲する同姓a0212807_2119517.jpgの恋人から別れ話をされました。
四ノ宮には、学生時代に知り合った親友がおり、彼への密かな恋心を誰にも言わず抱き続けていました。
この三人の主人公を演じるのは、先に述べましたが、全員オーディションで選ばれた無名の新人俳優です。
橋口監督の丁寧な演出による三人の演技に手垢の付いていない素朴さが、ドキュメンタリーのような臨場感とa0212807_21222127.jpgその場のリアルな雰囲気を醸し出しています。
主人公たちを取り巻く閉塞した社会が、どんなにやり切れなく絶望的であっても今を精一杯生き、胸にわずかな希望を抱きながら「それでも人は生きていく」という橋口監督のメッセージは、やさしく温かいものでした。
橋口監督作品の常連俳優である安藤玉恵(1976~)やリリー・フランキー(1963~)ほか数名以外皆無名の俳優a0212807_2127113.jpgばかりで、彼らが個性を発揮し好演していることも「恋人たち」を質の高い瑞々しい映画にしているように思います。
私個人の勝手な感想ながら今年2015年日本映画の最高傑作ではないでしょうか?
映画を見ている者は、主人公たちの胸の中にある‘なんでこんな理不尽な仕打ちを自分が受けるのか’というやり場のない怒りが、見ている自分の中にもある同じ思いとa0212807_2139870.jpg同期(シンクロ)して、心をヒリヒリさせるものの橋口監督は、ラストシーンで主人公三人の未来に微かな希望を残して終わります。
最後に、くだらない脚本で無能な監督が、お遊戯会なみの演技しかできない芸能タレントを起用したひどい日本映画の氾濫(あくまで映画館で予告編を無理やり見せられた私の判断です)には、正直うんざり、‘作家主義と俳優発掘’を貫き、オリa0212807_2153534.jpgジナル映画製作プロジェクトを企画プロデュースする深田誠剛氏(左写真、松竹ブロードキャスティンク 企画プロデューサー゙、主な仕事に「父と暮らせば」・「紙屋悦子の青春」・「ぐるりのこと。」・「歩いても 歩いても」・「恋人たち」などいずれも秀作映画を企画)のような‘目利き’の方の作品が、一つでも多く公開されるよう一映画ファンとしてこれからも積極的に応援していこうと思っています。
by blues_rock | 2015-11-19 00:09 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)