アンドレイ・タルコフスキー監督 「ノスタルジア」 シネマの世界<第550話>
今にして思えば、旧ソ連共産主義の卑劣にして抑圧的な管理社会に辟易していたタルコフスキー監督は、「ストーカー」のプロット(構想)で1986年の‘チェルノブイリ原発の爆発事故’、1991年の‘ソ連の崩壊’をすでに暗示しており、1986年亡命先のパリで亡くなる前からそれらをソ連国家体制の必然として予知し予見していたのかもしれません。
SF映画「ストーカー」には、‘SF映画らしきところ’が、ほとんどなく、人間の立ち入れない危険地域‘ゾーン’ の存在(ゾーンの原因はナゾで劇中巨大隕石の落下らしいと主人公であるストーカーは語る)、ストーカーの娘(少女)は、両足に歩行障害があり彼は、娘をミュータントと呼ぶ、娘の超能力(念力 サイコキネシス)を示唆する短いシーン(カット)が、2回ありSF映画らしいシーンは、これだけと言って良いでしょう。
タルコフスキー監督の特長である長回し、‘水’の演出(「ストーカー」に映る‘水’はみな澱み汚れている)、モノトーンとカラー映像の変幻自在な構成など映画ファンの方にぜひ見ていただきたい作品です。
タルコフスキー監督は、1983年に「ノスタルジア」(カンヌ国際映画祭で創造大賞受賞)を発表すると1984年にフ
それくらいタルコフスキー監督は、ロシア映画の芸術性と発展をソ連共産党当局が、検閲と弾圧で阻んできたことに対する嫌悪と憎悪は、強烈なものでした。
1986年タルコフスキー監督が、亡くなるとタルコフスキー映画を愛した世界的な作曲家武満徹(1930~1996)は、独奏ヴァイオリンと弦楽曲「ノスタルジア~アンドレイ・タルコフスキーの追憶に」を作曲、アンドレイ・タルコフスキーに捧げました。
映画「ノスタルジア」は、ロシア人作家アンドレイ(アンドレイ・タルコフスキー自身がモデル)が、通訳の美しい女性エウジェニアを連れロシアに帰れば農奴になると知りながら帰国し自殺した音楽家パヴェル・サスノフスキー取材のためイタリアのトスカーナに向かうところから始まります。
アンドレイは、心臓病を患い余命が、もう長くないことを知っていました。
アンドレイとエウジェニアの二人は、旅の最後に小さな温泉地バーニョ・ヴィニョーニに立ち寄りました。
ドメニコは、アンドレイを住処の廃屋に招きました。
そのころアンドレイは、温泉地バーニョ・ヴィニョーニに戻り、ドメニコから渡されたロウソクに火を点け、広い温泉の一方の端から向こうまで渡り切るという彼との約束を実行していました。
三度目のトライで温泉を渡り切るとアンドレイは、心臓病の発作で突然倒れ、死期が迫った彼の脳裏に浮かんだのは、雪の降り続く懐かしい故郷の風景でした。