レバノン シネマの世界<第548話>
作戦の目的も詳細も何も知らないまま軍の命令(移動も攻撃も外部から無線で命令される)でレバノンに侵攻した彼らは、敵地の中で戦闘の全体像を知ることなく死と隣り合わせの戦闘を強いられました。
戦車内の床を流れる小便に雑じるタバコの吸い殻やゴミ、若い兵士4人の表情を戦車内のカメラは、リアリズムあふれる映像で捉え、密室劇の緊迫した雰囲気と戦闘の緊張を醸し出しています。
戦車の外の様子は、戦車内の十字スコープ(照準線モニター)から見える景色だけ、聴こえる音も十字スコープの動く音、戦車のディーゼルエンジンの音、4人の動く音だけです。
若い兵士4人‥どこにいるか分からない不安、これからどこに行くのかも不明‥動くものを撃てば老人・女子供を殺してしまう怖さ、撃たなければ、攻撃される怯え‥無線で入る上官の命令は、いつも不条理なことばかり‥戦車内の狂気とすさまじい緊張は、反戦と言うより究極のスリラーです。
映画を見る者も4人と同じ体感をしますので、閉所恐怖症やパニック障害のある方には、お薦めできません。
「レバノン」は、ヴェネツィア国際映画祭最高賞の金獅子賞を受賞しました。
映画のラストシーンで初めて、若い兵士4人の乗っていた戦車の外の様子が、分かります。
これは、マオズ監督の名作「ひまわり」へのオマージュなのでしょうか?
「レバノン」は、マオズ監督の斬新な演出技法も秀逸ながら主人公の若いイスラエル兵4人を演じた無名の若い俳優たちによる真迫の熱演が、何より「すばらしい!」の一言です。