ジミー、野を駆ける伝説 シネマの世界<第547話>
さて、イギリスの名匠ケン・ローチ監督(1936~)の2014年新作映画「ジミー、野を駆ける伝説(Jimmy's Hall)」は、2004年作品「麦の穂をゆらす風」の続編と位置付けられる作品でアイルランドの内戦が、国民に与えた癒えない心の疵とその中から芽生えた希望を描いています。
「ジミー、野を駆ける伝説」は、1932年のアイルランドが、舞台です。
アイルランド内戦終結から10年が経ち、アメリカに追放されていた元農地解放活動家ジミー・グラルトン(実在の人物1886~1945、演じているのはバリー・ウォード、初主演)は、長年苦労を懸けた年老いた母親と共に暮らすために故郷の村に還って来ました。
無欲で誠実なジミーの望みは、老いた母親の面倒を見ながら穏やかに暮らすことでした。
10年前ジミーは、小作農の貧しい村の若い仲間たちと自主的に学び人生を語らい歌とダンスに興じる集会所(コミュニティ・ホール)を自主運営していました。
その懐かしい思い出多いホールも10年の内に朽ちてあばら家になっていました。
アイルランド内戦は、表面上終結したように見えるものの大地主と癒着した権力(政治家と警察)の小作農弾圧と搾取、旧態依然の因習を村人に強制する教会が、地域全体を支配し陰鬱な閉塞的な社会にしていました。
人望のあった元活動家ジミーの元へ気心の知れた昔の仲間たちが、次第に集まるようになり、10年前リーダーであったジミーに彼らは、自分たちも団結して協力するからホールを再開しようと訴えました。
そんな暮らしの中で私利に無欲で実直なジミーは、大地主の理不尽な要求や教会の偽善的な行為を見過ごすことができなくなり、そんな彼の反権力・反権威主義の正義感は、大地主・警察・教会との諍いを引き起こすようになりました。
映画の見どころは、年老いた母が、また独り暮らしになるのを覚悟して最愛の息子ジミーを黙って見守り続ける眼差し、ジミーが、昔
ジミーの私欲のない誠実な精神を受け継いだ大勢の若い仲間たちが、警察の制止を無視して護送トラックの荷台に乗せられ港へ向かうジミーに声をかけ手を振って見送るラストシーンは、見る者の心を救済し感動します。
(上写真:撮影中のケン・ローチ監督)