フィアー・エックス シネマの世界<第514話>
これより8年前の2003年レフン監督は、それまでデンマーク語で撮っていた映画を英語に変えサスペンス・スリラー映画「フィアー・エックス」(Fear X)を撮りました。
一部の熱狂的な映画ファンからは、高い評価を得ました、が興行的に大失敗、多額の借金を抱えてしまいました。
「フィアー・エックス」のプロットは、ショッピングモールで妻を殺された元警官ハリー・ケイン(ジョン・タトゥーロ 1957~)が、殺人現場のあるショッピングモールの警備員となり自ら殺人犯を捜すサスペンス・スリラー映画です。
この映画の主人公ハリーは、夜ごと自室にこもり、沈鬱な表情で黙々と防犯カメラが記録したビデオ映像を偏執狂のように調べ、容疑者らしき人物を見つけることに人生のすべてを懸けていました。
ハリーは、次第に目覚めているときの現実と眠っているときに見る悪夢との区別ができなくなり、やがて現実と幻覚の間を彷徨い始めます。
レフン監督の演出は、ハリーの常軌を逸した行動について何も説明せず「妻を殺した犯人の動機を知りたい」というハリーの一念が、無言のままサスペンスたっぷりに展開していきます。
ある夜ハリーは、夢の中で、妻が、辺りを伺うようにして向かいの家へ入っていくのを見ました。
翌朝ハリーは、空き家であるその家に無断で入り部屋に落ちていた写真のネガを見つけました。
ネガを現像するとかって妻とふたりで一度だけ行ったことのある街の風景と見知らぬ家族が、写っていました。
映画は、サスペンスからスリラーのように変化していきます。
ハリーは、悪戦苦闘のすえ、ついに容疑者を自分の滞在するホテルに誘き寄せ格闘して取り押さえたものの、その一部始終を捉えているはずの防犯カメラのビデオ記録には、何も写っていませんでした。
ハリーは、妻が、汚職警官摘発のオトリ捜査中にショッピングモールを偶然通りかかり事件に巻き込まれて警察官の発砲した銃で射殺されたのでした。
警察は、汚職警官オトリ捜査に関わる殺人事件を隠蔽、ハリーの妻を事故死として扱い捜査を終えました。
帰路に着くハリーは、失意の叫び声をあげながら泣き崩れました。
レフン監督作品の映像は、レフン監督の色覚障害によるものながら、どの映画も赤・緑・黄・青などの鮮やかな色調(色彩kコントラスト)が、特長です。
この映画「フィアー・エックス」で早くも随所で使われている‘レフンの赤’と云うべき色調の照明で映し出されたジョン・タトゥーロの沈鬱な表情が、強く私の印象に残りました。