人のセックスを笑うな シネマの世界<第475話>
映画の原作者 山崎ナオコーラ(女性小説家1978~)が、小説を書いているとき立ち寄った書店で、同性愛か何かの本を立ち読みしながら笑っている人を見て「人のセックスを笑うな」と思い、この映画の原作小説のタイトルにしたのだそうです。
映画は、冒頭に “don't laugh at my romance”(私の恋愛を笑うな)と英文のクレジットが、表示され「人のセックスを笑うな」のタイトルイメージとは、裏腹なユニーで純粋な恋愛ドラマが、展開していきます。
監督・脚本は、撮影カメラの長回しと出演者にアドリブ演技(監督からカットの声がかからないので自然と演技せざるを得ない)を求めることで定評のある女性監督井口奈己(1967~)、美術監督を木村威夫(1918~2010、「夢のまにまに」で世界最高齢の長編映画監督、監督デビュー当時90才)が、担っています。
映画のストーリーは、美術専門学校に通う19才の青年みるめ(松山ケンイチ 1985~)とリトグラフ教室講師39才既婚女性ユリ(永作博美 1970~ 主演最新作「さいはてにて~やさしい香りと待ちながら」 こちら)との奇妙な恋愛模様を描いています。
美術学校の学生みるめとリトグラフ講師ユリとの間には、20歳の年齢差があるものの二人の関係は、まるで幼なじみのような無邪気な仲の良い子供のようです。
ユリには、開店休業状態の古ぼけた写真館主猪熊さん(あがた森魚 1948~ ミュージシャン LPアルバム「乙女の儚夢」)という年の離れた夫がいるものの二人の関係は、アッケラカンとした仲の良い夫婦です。
偶然ユリと知り合ったみるめは、彼女が自分の通う美術学校の講師と知りませんでした。
学校の版画工房で黙々とリトグラフの制作しているユリに興味をもったみるめは、「モデルにならない!?」のユリの一言で素直に彼女のアトリエについて行きました。
アトリエに着くといきなりユリから「さあ、脱いで」と言われたみるめは、困惑しながらも言われるまま服を一枚ずつ脱いでいきました。
天真爛漫でアッケラカンとした小悪魔のような女性ユリを名女優永作博美が好演、井口監督いつもの長回し演出に「だらだら感のある」すばらしい演技で応えています。
年上の女性ユリから「触ってみたかった」と言われた青年みるめは、‘恋は盲目’でユリの虜(とりこ)となり、メロメロになりますが、彼女は、のらりくらりと付かず離れず年下の若者みるめを翻弄します。
私が、魅かれたのは、みるめに片想いしている友だち えんちゃん役の蒼井優(1985~ 下写真)の存在感で、シャイなくせに図太く、繊細な気持ちを直接行動に移すボーイッシュな娘えんちゃんの役を蒼井優そのままのような自然さで演じていて、とてもチャーミングでした。
井口監督は、映画に登場する人物の自然な姿をカメラに収めるため長回しで撮影しますが、出演者には、本番前「台本を忘れてください、セリフなんてどうでもいいですから」と言って「スタート!」の声をかけるとのこと、そしてカメラは、いつまでも回り続け、当の井口監督が、なかなか「カット!」の声をかけないため出演者は、仕方なくアドリブで演技を続けざるを得ない‥そこに井口監督演出の真髄(ネライ)である「映画の日常的な風景、普通の会話、さらに演技とは思えないリアルな実在感」が、表現されるのかもしれません。 (上写真:井口奈己監督と主演の永作博美)
上映当時はさすがにタイトルに気兼ねして足が運べず、後日DVDを借りました(苦笑)
でも冒頭でおっしゃっているように、ホント、奇抜な設定/エキセントリックな演技もなく、とても自然体で、どこにでも/だれにでもありそうなリアルさに打たれたものです。
脇役陣も要所要所をシメて、そのぶんかれらの存在感が増したというか・・・うん。少数精鋭!当時89才の美術監督もふくめ、スタッフ&キャストが気持ちよく仕事をしたんだろうなと思わせる「読後感」がありましたね。
ほんとうにいい映画でした。
日本の恋愛映画にありがちな ‘湿っぽさ’を感じないのが、好いですね。