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心の時空

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悪童日記  シネマの世界<第465話>

人間の魂(精神・心)を破壊する戦争映画の名作リストにまた一巻、2014年公開のハンガリー映画「悪童日記」(原題 Le Grand Cahier大きなノート)が、加わりました。
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ハンガリーの映画監督ヤーノシュ・サース(1958~ 脚本・製作総指揮)のリアリティに徹したシンプルな演出と撮影監督クリスティアン・ベルガー(1945~)が、撮った‘光と闇’の融合した映像は、詩的で美しく芸術的です。
a0212807_21182515.jpg映画は、ハンガリーの首都ブタペストで両親と幸せに暮らしていた双子の少年が、戦況の悪化から祖母の居る寒村に疎開、そこで邪悪な村人たちによる情け容赦ない暴力と卑劣な仕打ち(欺瞞)にさらされ、母親から言われた「学び続けなさい、生き続けなさい」の言葉を胸に二人協力して‘聖書と辞書’を学び心身を鍛え、別れる前に父親が、二人に渡した一冊の大きなノートに‘ぼくら’が、冷酷で残虐な現実社会をどうやって生き延
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びたか体験した事実を日記に書いていく物語です。
ナチスに支配されていたハンガリーは、第二次世界戦争が終わると今度は、ソ連に支配され、ハンガリー動乱a0212807_2121065.jpgが、勃発しました。
原作は、ハンガリー動乱時の難民女性作家アゴタ・クリストフ(1935~2011)が、1986年51才の時、パリで発表した初の長編小説「Le Grand Cahier(大きなノート)」です。
原作の小説は、世界的ベストセラー(日本では「悪童日記」と翻訳され80万部発刊)になりましたが、発表当時、この小説の内容を「映画化することは不可能」と言われました。
a0212807_2121333.jpg脚本・製作総指揮も自分で担ったヤーノシュ・サース監督は、粘り強く映画化権を出版社と交渉し権利を獲得すると原作者のアゴタ・クリストフと会い原作と脚本をすり合わせました。
サース監督は、撮影監督にオーストリアの名監督ミヒャエル・ハネケ(1942~)の信任厚い名カメラマン、クリスティアン・ベルガー(ハネケ監督作品「白いリボン」参照)を起用しました。
a0212807_21262587.jpg撮影監督のベルガーは、双子の少年二人が、戦時下の劣悪な環境の中で大人の冷酷な暴力や卑劣な欺瞞に立ち向かい耐えながら、生き残るため他の命を奪うことなど意に介さなくなるまでの様子、虐待する醜悪な祖母、迎えに来た身勝手な母親や捕虜収容所から逃亡したナa0212807_2127169.jpgチス軍人の父親など肉親の死すらも平然と受け入ていく様を‘昼の光と夜の闇’の中で表情もアップにせず、風に揺らぐ木々をロングショットで撮ったシーンなどと交え、絵画的な詩情あふれる映像にしました。
a0212807_21282363.jpg音楽監督のヨハン・ヨハンソン(1969~ 「プリズナーズ」の音楽監督)は、音楽を重低音の主旋律と太鼓(和太鼓のような音)の音で構成、緊迫感のある戦時下の暗鬱な雰囲気を表現していました。
a0212807_21291299.jpg何と言ってもこの傑作映画「悪童日記」の核となるのが、主人公である無垢な双子の少年(映画に二人の名前はなく祖母から「メス犬の子」と呼ばれている)で、母親の「決して学ぶことをやめてはいけない。何があっても生き延びなければならない。」という教えと父親の渡した大きなノートに、日々大人たちから受ける虐待・暴力・憎悪・裏切りa0212807_2130651.jpgから身を守るため、生き残るために二人は、‘暴力には暴力’の冷血な魂をもつ“悪童”に成長していきます。
悪童に成長していく双子の少年を演じたアンドラーシュとラースローのジェーマント兄弟は、映画初出演の素人ながら天才的な演技を披露、内心を決して見せない二人‘あうん’の大人たちへ向ける冷酷な視線は、見る者の胸a0212807_21522666.jpgに刺さってきます。
サース監督は、双子の少年役をキャスティングするためハンガリー中の学校に隈なく当たりオーディションしてアンドラーシュとラースロー兄弟を見つけました。
サース監督は、「アンドラーシュとラースロー・ジェーマントの双子兄弟と出遭えたのは、奇跡だった。ハンガリーの貧しい村で育ち、幼い頃から過酷なa0212807_21533725.jpg労働と虐待に晒されていたので演技指導は、必要なかった。」とインタビューに答えています。
村人に「魔女」と呼ばれ、実の娘を「メス犬」と蔑み、双子の孫に「メス犬の子」と罵声を浴びせ虐待する醜悪な祖母を演じるピロシュカ・モルナール(1645~ 実にすばらしい存在感に脱帽)、性的倒錯のナチス将校役のウルリッヒ・トムセン(1963~「ある愛の風景」、「未来を生きa0212807_21545448.jpgる君たちへ」)、ハンガリー人ながらナチスの軍人である双子の父親役にウルリッヒ・マテス(1959~「ヒトラー~最期の12日間」、「9日目」)と名優たちの存在感も映画を引き締めています。
双子の少年に‘生きるために盗むこと’を教える野性的な兎唇(三つ口)の少女(オルソルヤ・トス 1981~)の妖しい魅力(エロティシズム)、タイトルバックデザインの洗練されたセンスの良さも私の印象に残りました。
                         (上写真:ヤーノシュ・サース監督 「悪童日記」公式サイト こちら
by blues_rock | 2015-03-22 00:22 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)