雨月物語 シネマの世界<第417話>
日本映画の名匠と言えば、もう一人黒澤明監督(1910~1998)ですが、黒澤監督は、ヨーロッパよりアメリカの映画監督に大きな影響を与えてきました。
さて、溝口監督の妥協を許さない演出(演技指導)と徹底した撮影へのこだわり(とくにワンシーン・ワンカットの長回し)は、「雨月物語」を日本古(いにしえ)の幽玄美漂う溝口監督作品の代表作にしました。
溝口監督の「雨月物語」は、江戸時代の国学者にして読本作者上田秋成が、書いた怪異(ホラー)読本「雨月物語」の中から「浅茅が宿」と「蛇性の婬」の二章を原作にしています。
「浅茅が宿」は、戦国時代の世、武将に憧れ立身出世するため妻を捨て京に上った男が、7年ぶりに家に帰ると妻の幽霊に迎えられたという話で、「蛇性の婬」は、京の通りで出遭った美しい女から見初められた男が、大きな屋敷に招かれ座敷に上がると‥妖艶な姿をした女は、妖怪(蛇の化身)であったという話、この二つの話を融合させて映画が、構成されています。
溝口監督は、「雨月物語」の時代考証、背景の街並みと室内のセット、大・小の古道具類、当時の衣装などすべてに徹底してこだわり、撮影監督宮川一夫(1908~1999 こちら 参照)と組んでシルバーゼラチン・フィルム(モノクロ)の特質を生かす撮影技術を駆使し、白黒映像が美しいレアリティのある映画にしました。
「雨月物語」のほか溝口監督の映画は、ヨーロッパの映画作家に大きな影響を与え、中でもフランス映画ヌーヴェルヴァーグの旗手ジャン=リュック・ゴダール(1930~ 「勝手にしやがれ」・「気狂いピエロ」)の傾倒ぶりは、とくに有名でインタヴューで「好きな監督を三人挙げてください」という質問に、ゴダール監督は、「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ」と答えたそうです。
主な出演者は、京マチ子(1924~ こちら)、田中絹代(1909~1977)、森雅之(1911~1973)、小沢栄太郎(1909
名作映画は、いつ見ても数十年の時空を超えて私の心に新鮮な感動を与えてくれます。