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心の時空

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母の身終(みじま)い  シネマの世界<第401話>

フランス映画の俊英ステファヌ・ブリゼ監督(1966~)による2013年日本公開作品「母の身終(みじま)い」(原題 Quelques heures de printemps‘春のわずかな時間’ 脚本も同監督)は、尊厳死(安楽死)を映画の道具立てにa0212807_14213819.jpgしていますが、ステファヌ・ブリゼ監督の非凡なところは、尊厳死を丸ごと映画のプロットにしていないところです。
主人公の老女イベットは、末期ガン(悪性の脳腫瘍)に冒されていますが、終末期医療(ターミナル・ケア)を拒否、自らの意思で尊厳死(安楽死)することを選択しました。
その老いた母と折り合い悪く長い間きちんと向き合えなかった48才の息子アランが、もう一人の主人公です。
ブリゼ監督は、実の親子とはいえ性格の違いから些細なことですぐに対立、言い争う二人の日常生活をきめ細かく捉え、母親と息子の‘最期の時間’を静かに見つめます。
「母の身終(みじま)い」のすばらしさは、ブリゼ監督の秀逸な演出にあります。
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物語のコアとなる母親イベットの尊厳死や終末期医療の説明は、事実だけをさらりと流し、長年にわたる親子の間のわだかまりについても余計なお節介(口出し)はせず、映画の展開に感傷的なしんみりするシーンはありまa0212807_14232212.jpgせん。
お互い頑固な性格で自分の気持ちを素直に云えず、意地を張り合う老母と中年の息子‥その老いた母親イベット役をエレーヌ・ヴァンサン(1943~)、余命いくばくもない老母を悩ます不肖の息子アラン役にヴァンサン・ランドン( 1959~)、この二人の存在感が、とにかく‘すばらしく’、何気ない所作(演技)ながらリアリズムの真髄を見せてくれます。
a0212807_14254515.jpg加えてもう一人、イベットとアランの親しい友人で善良な隣人ラルエットを演じるオリヴィエ・ペリエ(1940~ 2010年映画「神々と男たち」に出演)の穏やかで慈愛あふれる渋い演技もこの映画の見どころです。
長距離トラック運転手であったアランは、麻薬の運搬に関わり刑務所に服役、出所しても行くところなく年老いた母親イベットが、一人暮らす家に身を寄せました。
a0212807_14274793.jpg仕事を探しますが、長続きせず、母親イベットとの折り合いも悪く、何かにつけ衝突ばかりしていました。
そんなある日、アランは、母親が末期ガン(悪性脳腫瘍)に冒され、死期も近いのに病院の提案するターミナルケアを拒否しスイスの尊厳死支援施設で自死する契約書にサインした書類を見て愕然としました。
映画は、イベットの日常的な生活の何気ない‥料理や洗濯、掃除など一つひとつの行為や仕草を丁寧に映してa0212807_14292412.jpgいきます。
尊厳死(=自死)を強く望む母親イベットの決断に息子アランは、苦悩します。
しかし、イベットは、息子アランに「気難しく身勝手な夫と結婚し働くだけの人生で何も自分で決められなかった。自分の最期ぐらい自分の意思で決める。」と語りました。
迎えに来た施設のスタッフから「あなたの人生は、幸せでしたか?」と質問されたイベットが「人生は、人生ですa0212807_14305364.jpgから。」と答えるシーンは、ズシリと私の胸に応えました。
スイスに向かうイベットが、旧い友人で善き隣人であったラルエットとお別れのハグをするとき、ラルエットが、イベットに「あなたの隣人で幸せだった。」と最期の言葉を伝えるシーンも感動しました。
オーストラリアのミュージシャン、ニック・ケイブ(1957~ 2013年映画「欲望のバージニア」の脚本と音楽を担当)の音楽も心に響きました。
by blues_rock | 2014-10-06 00:10 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)