大統領の執事の涙 シネマの世界<第305話>
とくにジョン・F・ケネディ大統領の暗殺と次期大統領候補と見られていた弟のロバート・ケネディ司法長官暗殺、非暴力による黒人解放公民権運動を指導したマーチン・ルーサー・キング牧師暗殺と当時の暗澹たるアメリカ社会の原風景を見せられ、アメリカ建国の精神を喪失した白人支配社会に閉塞感が漂い‥時おりしもベトナム戦争の泥沼化に反戦運動の全米への広がりと黒人解放公民権運動とが、融合し変革していくアメリカ国家をリー・ダニエルズ監督(1959~)は、歴史を俯瞰しながらクールに演出、ホワイトハウス執事セシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテカー 1961~)の人生と彼の家庭を通してアメリカの負の歴史をリアルに描きました。
自らもアメリカ社会のマイノリティ(ゲイ・黒人)であるダニエルズ監督は、アメリカの人種差別や奴隷制度の歴史、社会に存在する差別に人一倍敏感で、差別問題に反感をもつ気持ちが、演出に過度に表われる時、執事セシル・ゲインズ役のフォレスト・ウィテカーは、ダニエルズ監督に「リーだめだよ、もっと魂を解放しなければ。それに拘る気持ちを抱えていると圧し潰されてしまうよ」と人種差別問題に関わる演出でアドバイスしたそうです。
ダニエルズ監督は、執事セシル・ゲインズを軸にアンサンブル・キャスト(群像劇)演出により映画を撮っています。
セシルは、奴隷として人種差別され続けホワイトハウスで7人の大統領に忠実に仕えますが、彼は、それまでの人生の中でどんな辛い仕打ちをされても白人を憎みませんでした。
そんな父を恥じる長男は、黒人解放運動に身を投じ、何度も刑務所に入れられました。次男は、自分がアメリカ人である誇りを示すためベトナム戦争に志願し戦死しました。
歴代の大統領から厚い信任を受け34年間ホワイトハウスで働いた執事セシル・ゲインズを名優フォレスト・ウィテカーが、見事に演じています。
執事セシル・ゲインズの妻役にアメリカTV界の有名司会者オプラ・ウィンフリー(1954~)、セシルの母で綿花畑の奴隷役に歌手のマライア・キャリー(1970~)、ホワイトハウスの同僚役でロック・ギタリストのレニー・クラヴィッツ(1964~)が出演、味のある名演技を披露しています。
アイゼンハワー大統領をロビン・ウィリアムズ(1951~)、ケネディ大統領にジェームズ・マースデン(1973~)、レーガン大統領はアラン・リックマン(1946~)、同夫人をジェーン・フォンダ(1937~)が演じ、脇をビシッと絞めていました。
映画のラストに、アメリカ建国以来初めての黒人大統領、オバマ大統領が、象徴的な意味で登場し映画「大統領の執事の涙」の最後を締めくくります。