マイ・ライフ、マイ・ファミリー シネマの世界<第304話>
映画のプロットは、ジェンキンス監督自身が、体験した親の認知症介護を不条理劇として映像化した作品で、サベージ家の家族(父親と兄妹)それぞれが、抱える現実問題をトラジックコメディ(悲喜劇)仕立てにした映画です。
ある日、長い間疎遠であったアリゾナに住む父親が、重度の認知症で身寄りも財産もないので兄妹(きょうだい)で引き取り、二人で面倒見るハメになりました。
兄妹の母親は、二人が子供のころ暴力な父親に愛想尽かし愛人と逃げ、父親は、残された兄妹を虐待し捨てた過去がありました。
成長した兄のジョン(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、演劇学で博士号をもつ大学教授で、妹のウェンディ(ローラ・リニー 1964~)は、契約社員をしながら脚本家を目指していました。
兄妹は、仕方なく認知症の父親をバッファローに引き取ったものの二人とも父親の介護をする気はなく、自分の生活が壊れることを恐れ、認知症老人を受け入れる施設を探しました。
認知症で環境順応できず混乱している老いた父親とそれに関わりたくない兄妹の自己都合(わがまま)が、交錯しながらサベージ家親子関係の悲喜劇に現代日本の高齢化社会の現実を見る思いでした。
映画に登場する各種老人ホームや認知症介護施設の介護員は、何処もアフリカ系アメリカ人か貧困国からの移民ばかりで、やがて日本の高齢者介護施設の介護員もアジア系移民で占められる近未来を見た思いです。
「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」は、インディペンデント・スピリット賞の独立系映画コンクールで、フィリップ・シーモア・ホフマンが主演男優賞、ジェンキンス監督が脚本賞を受賞しました。
アカデミー賞主演男優賞を受賞した名優フィリップ・シーモア・ホフマンが、主演した秀作映画が、劇場未公開(ビデオ・スルー)扱いとは‥日本の映画配給会社に‘映画の目利き’がいない証左でしょう。