アメリカン・サイコ シネマの世界<第272話>
映画「アメリカン・サイコ」のプロットは、ニューヨーク、ウォール街のユダヤ系投資会社で働くエリート(副社長‥アメリカの会社には副社長が何人もいる)にして高給取りのビジネスマン、パトリック・ベイトマン(クリスチャン・ベール)を主人公に、アメリカ現代社会の病巣と精神の疲弊をブラック・ユーモアで嗤いシニカル(冷笑的)に風刺するスタイリッシュ・ホラーです。
メアリー・ハロン監督(詳細不詳)は、主演クリスチャン・ベールのイメージで脚本を書き映画撮影の準備に入っていました。
ところが、映画製作スタジオから主演をレオナルド・ディカプリオにしたいとキャスト変更連絡が入るとハロン監督は、「やーめた」とばかりサッサと監督を降りました。
製作スタジオは、メアリー・ハロン監督の代わりにオリバー・ストーン監督で「アメリカン・サイコ」を撮ろうと企画変更したものの今度は、ストーン監督から「ノー」の返事、結局ハロン監督を復帰させクリスチャン・ベール主演のスタイリッシュ・ホラー「アメリカン・サイコ」が、完成しました。
共演は、ウィレム・デフォー(1955- 1986年「プラトーン」、2009年「アンチクライスト」が印象的)、音楽をジョン・ケイル(1942- 元ベルベット・アンダーグラウンド)が担当、ハロン監督とジョン・ケイルの音楽も冴えています。
投資会社(社長は父親)に副社長として勤務するパトリック・ベイトマン(クリスチャン・ベール)のウォール街を肩で風切るエリート・ビジネスマンは、外面(そとづら)だけで、毎日同僚たちや友だちと行きつけのカフェに集まり、彼らはお互い自分の高級レストラン自慢、自分の名刺(材質や文字デザイン)自慢などのくだらない自慢話ばかりして優越感に浸っていました。
ある日、ベイトマンの前にルックス・学歴・オシャレとどこを取っても非の打ちどころのない同僚ポール・アレンが現われました。
それを見たベイトマンは、茫然自失‥メラメラと激しい嫉妬に襲われ、言葉巧みに彼の住むホテルのような高級マンションに押しかけ、オノで殺してしまいました。
失踪したポール・アレンを捜索する探偵(ウィレム・デフォー)は、ベイトマンにアレンが失踪した当日のアリバイを執拗に質問し、ベイトマンを追い詰めて行きました。
映画に登場するのは、高学歴・高収入のエリート・ビジネスマンばかりですが、彼らは憐れなほど浅はかで、お互いの信頼や友情は、ただ上辺だけのもの、同じヘアスタイル、共通の趣味、同じブランド・スーツ‥彼らのライフスタイルは、お互いダレがダレだか区別できないほど似ています。
彼らは、皆高学歴ながら独自のアイデンティティー(人格を伴う個性)など無く、共通の価値観をもつコミュニティ中で他人と比較し競争、その自己主張にあるのは、優越感と劣等感から沸きあがる嫉妬心の二択だけでした。
映画に登場する彼らの高学歴・高収入には、足元にも及びませんが、いま日本に氾濫する軽佻浮薄な‘勝ち組・負け組’二択の価値観も質の悪さは、同じと思います。
‘グローバル・スタンダード’の本質は、多様な価値観を二択で選ぶ愚劣さ‥極めつけのスタイリッシュ・ホラーかもしれません。
この映画で印象的だったのは、友達同士で名刺のフォントを自慢しあうシーンでした。
世の中、もうなんでもかんでもステータスの道具にしたがる風潮には笑ってしまいます。
それにしてもクリスチャン・ベールは上手いですねえ。
「太陽の帝国」の子役が、クリスチャン・ベールだったと知って、すぐにレンタルDVDを借りに行きました。
今年、最後に映画館で観たのは、「鑑定士と顔のない依頼人」です。
やっぱり面白かったです。
でも、2回以上観ないと随所に散りばめられた状線を見落としてしまいます。
いつも、ブログを訪問してくださってありがとうございました。
それでは、良しお年をお迎えください。
J-マッチさんのすばらしい百道浜夜景、感動しました。
「梅林緑道」からあんなにきれいな夜景が、撮れるとは知りませんでした。 撮影技術は言わずもがな、相当高感度の望遠レンズで撮られたのでしょうね。 いつも楽しみにしています。