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心の時空

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a day in my life

ブラック・ブレッド  シネマの世界<第229話>

a0212807_22575948.jpg1936年7月から1939年3月まで2年8か月に及んだスペイン内戦は、スペイン国民の精神を深く傷つけました。
その心の傷は、74年経った現在(いま)も癒えてはいないように思えてなりません。
スペイン内戦は、スペイン国内で民族と地域の紛争、支配階層の王侯貴族・地主資産家・カトリック教会と抑圧貧民階層の労働者・小作農民の階級闘争、全体主義(ナチスドイツ支援の民族主義ファシズム)と共産主義(ソ連指導のコミューン)の政治的対立と市街戦、社会主義者(スペイン革命派・無政府主義者)と議会制民主主義者の粛清など家族・隣り近所さらに友人たちが、敵味方真っ二つに別れ、親兄弟を裏切り、仲間同士が殺し合うという‘怨念と憎悪’の蔓延は、スペイン国内の社会秩序を破壊してしまいました。
a0212807_2361135.jpgスペイン内戦によるお互い‘血で血を洗う’虐殺行為の数々は、またスペインの未来を担う子供たちの心にも癒えることのない深い傷痕を残しました。
スペイン映画の鬼才アグスティ・ビリャロンガ監督(1953~)の2010年作品「ブラック・ブレッド」(原題は「Pa negre」 ‘黒パン’)もまたスペイン内戦の時代を題材にしたシリアスな親と子の人間ドラマですが、映画のプロット(ストーリー)は、実にミステリアスでサスペンスに満ちています。(予告編 こちら
a0212807_23122697.jpg映画は、スペイン内戦が終結した1940年代でスペイン北東部カタルーニャ地方の山村が舞台、主人公は11才の少年アンドレウです。
このアンドレウ少年を演じたフランセスク・コロメール(右写真)の実在感がすばらしく、映画の冒頭とラストでは、アンドレウ少年の大人を見る目の表情が、がらりと変わります。
映画の冒頭シーンでアンドレウは、自分の知り合い親子の乗った荷車が、馬とともに崖から落ちるところを目撃しました。
a0212807_23153610.jpg荷車に乗っていた瀕死の少年は、「ピトルリウア」とだけ呟(つぶや)き息絶えました。
「ピトルリウア」とは、地元の森の洞窟に棲む鳥のような翼をもつ怪物(得体の知れない物の象徴)で子供たちの恐怖の対象でした。
アンドレウの従姉で早熟な少女ヌリアを演じるマリナ・コマス(当時14才)もすばらしく、アンドレウ役のフランセスク・コロメールは、ビリャロンガ監督のオーディションで選ばれ映画初出演ながらゴヤ賞新人男優賞を受賞、少女ヌリア役のマリナ・コマスも新人女優賞a0212807_2316117.jpgを受賞しました。
ストーリーに話を戻すと治安警察に反乱罪で処刑されたアンドレウの父ファリオルと彼が旧知の大地主夫妻との間には‘密約’がありました。
母フロレンシアもその事実を知っていましたが、本当のことを知りたがる息子アンドレウに‘生きるための嘘’をつき彼の疑問に決して答えませんでした。
息子アンドレウを溺愛する母フロレンシア役のノラ・ナバスも渾身の演技で、スペイン内戦下のスペインで息子a0212807_23213179.jpgの将来に悩む貧民階層の母親を熱演(ゴヤ賞主演女優賞受賞)しています。
あどけなかった少年アンドレウも、次第に大人のウソや大人の世界の汚さに気づき始め、彼の目が怒りを湛えた冷たい視線に変化していきます。
アンドレウは、父の‘密約’を知ったとき自分の意思で大地主夫妻の養子となることを決意、この時からアンドレウから純真無垢な表情は消え、少年の目は暗く沈んで行きます。
大地主夫妻の養子となったアンドレウは、医者を目指して都会の学校の寄宿舎に入ります。
a0212807_23311992.jpgある日、母フロレンシアは、息子アンドレウに面会するため遠く都会の学校へお土産の荷物を抱え訪ねますが、アンドレウの母フロレンシアを見る目は冷ややかで、お土産も受け取ろうとはしませんでした。
学校の友だちから「あの女性(ひと)はダレ?」と尋ねられても「荷物を届けに来た女性(ひと)」とぶっきらぼうに答え教室に帰りました。
学校の玄関を出ていく母の後ろ姿を無言で見送るアンドレウの息が、ガラス窓を白く曇らせ映画は終わります。
a0212807_23353849.jpg働きずくめの母は、これからも「ブラック・ブレッド=硬く不味い黒パン」階層暮らしですが、自らの意思で母を捨てた息子は「ホワイト・ブレッド=柔らかく美味しい白パン」階層で生きることを選択したのでした。
ビリャロンガ監督(左写真)の透徹したリアリズムに応える撮影監督アントニオ・リエストラの映像が美しく、美しいだけに余計見る者の心にしこりを残しせつなくさせました。
「ブラック・ブレッド」は、2011年ゴヤ賞を作品賞・脚本賞・監督賞・撮影賞など9部門で受賞しました。
by blues_rock | 2013-10-12 01:06 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)