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心の時空

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裸の島  シネマの世界<第223話>

a0212807_218151.jpg日本を代表する反骨の名映画監督、新藤兼人監督(1912~2012)の1960年モノクロ作品「裸の島」は、日本ネオレアリズモ映画の傑作です。
映画の主人公は、小作農夫婦二人と子供二人の家族4人、舞台は、瀬戸内海に浮かぶ小さな無人島で一周500㍍の海岸は岩だらけ、島に平地はなく生活に必要な水も畑に必要な雨水を溜める池もありません。
炊事と焚き木を集めるのは、小学校低学年くらいの子供の仕事です。
映画は、小さな無人島(裸の島)を借りて家族4人で移り住み、島の海岸から頂(いただ)きまでの急斜面を開墾しながら段々畑に‘水を撒く’小作農夫婦(乙羽信子 1924~1994、殿山泰司 1915~1989)の姿を、ただ無言で黙々と働く様子をドキュメンタリーのような映像で撮影し続けています。
a0212807_2116351.jpg太平洋戦争の無残な敗戦から10年、昭和30年代前半の日本にあって住む場所も財産も何もない極貧の家族4人が食べて生きていくために四の五の言わず働かなければならなかった当時の日本社会のリアルな現実を乙羽信子(当時36才)と殿山泰司(当時45才)の名優は、無言で働く小作農夫婦を見事に表現しました。
a0212807_21232063.jpg俳優2人(子役やエキストラ含まず)とスタッフ11人、低予算ながら新藤兼人監督(当時48才)が、すべてをなげうって撮った映画でした。
映画にセリフはなく、映画音楽(サウンド・トラック)と併せ「波の音」・「舟の櫓を漕ぐ音」・「水の音」・「足音」・「雨の音」などが聴こえるだけです。
a0212807_21243774.jpg夫婦の日課は、隣の島まで小舟を漕いで、生活水と畑の作物に撒く水を汲みに行くことでした。
日のあるうちに桶に入れた水を舟にのせて何度も運び、島の急斜面を夫婦二人それぞれに天秤棒で担ぎ運ぶ毎日、妻が急斜面で足を滑らせ桶の水を零(こぼ)すと夫は、無言のまま容赦なく妻を平手打ちにしました。
a0212807_21251418.jpgある日のこと、子供(幼い兄弟)が海で大きな鯛を釣り上げ家族4人は大喜び、家族それぞれ満面の笑みを見せるこのカットは、映画で唯一‘家族の幸せ’を映すシーンで感動、さっそく家族そろって巡航船に乗り最寄りの街尾道で鯛を売り、手にしたいくらかのお金で少し日用品を買い、家族4人一緒にカレーライスを食a0212807_21274097.jpgべることができました。
幸せもつかの間、小学校低学年の長男が高熱を出し父は、あわてて隣の島へ医者を迎えに行きましたが、間に合いませんでした。
長男の葬儀が終わると夫婦は、隣の島への舟での水汲みと海岸から天秤棒で急斜面を運び上げる厳しい労働の毎日に戻りました。
だが妻は、畑の作物に水をやっているとき突然、桶の水をひっくり返し狂ったように育ち始めた作物を引き抜き、畑に腹ばいになり顔を畑地に擦りつけて号泣しました。
夫は、妻の心痛が良く分かるので、声をかけるわけでもなくじっと見守るだけでした。
a0212807_21305399.jpgやがて妻は、気持ちを落ち着かせ、残った作物への水やりを再び始めました。
小作農夫婦にとって今日も明日もこの小さな島(裸の島)で生きてゆくしか家族の暮らせる場所はありませんでした。
「裸の島」は、モスクワ国際映画祭・メルボルン国際映画祭・マンハイム映画祭などでグランプリを受賞、他の国際映画祭でも多くの賞を受賞しています。
by blues_rock | 2013-09-27 23:05 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)