抱擁のかけら シネマの世界<第222話>
撮影監督は、メキシコの名撮影カメラマン、ロドリゴ・プリエト(1965~)です。
アルモドバル監督は、ペネロペ・クルスを往年の映画ファンなら一見してすぐオードリー・ヘップバーンと分かるルックスにして、ベッドでのラブシーンでは、ペネロペ・クルスの乳房を強調するかのように彼女の上半身ヌードを惜しげもなく露出して見せる演出をしています。
映画の冒頭、元有名な映画監督ながら交通事故で失明し盲目となった初老の下請け脚本家マテオと行きずりの若い金髪美人とのラブシーンで始まり、そこに彼の脚本を口述筆記する青年ディエゴと青年の母でマテオの元愛人ジュディット(長年マテオのマネージャー)が、相前後してマテオを訪ねて来ました。
14年前、失明する前の有名売れっ子監督であったマテオに映画製作を依頼した老大実業家エルネストの死亡
その死亡記事を聞いたマテオは、14年前の自分の身に起きた悲痛な記憶が、鮮やかに蘇りました。
ストーリーは、14年前に遡り老大実業家エルネストから主演女優を指定され映画監督を依頼されたマテオは、最初乗り気ではありませんでした。
だが、エルネストが連れて来た美しい女性レナ(ペネロペ・クルス)を見たとたんマテオは、彼女に一目惚れし主演女優を快諾しました。
マテオのレナを見つめる表情とレナの歓喜に満ちた無邪気な様子をじっと見ていたマテオの元愛人ジュディット
レナは、エルネストの秘書で愛人でした。
大富豪の老人エルネストは、若く美しい愛人のレナを溺愛、レナもエルネストと何不自由なく暮らしながら、彼の束縛を嫌い、エルネストの求婚を頑なに拒否していました。
レナは、「私の生涯の夢である女優になりたい」と主張、反対するエルネストに受け入れてくれなければ家を出ていくと脅しました。
映画監督のマテオに憧れていたレナは、マテオとすぐに関係をもちました。
大人の火遊びのようなメロドラマっぽさから映画は、一転して14年前の過去と現在が、ミステリアスに交錯していき次第にサスペンスの様相をおびてきます。
映画の構成は、マテオとジュディットの回想と告白から、やがて映画に登場する人物たちの極彩色に彩られた性愛と嫉妬、嫉妬からくる憎悪と復讐が、ビデオと映画フィルムの映像で表現されるシーンの数々は、アルモドバル監督の真骨頂でしょう。
映画のエピローグでライ・Xの撮影したビデオ映像に映る謀殺を思わせるようなレナの事故死(この事故でマテオは失明)シーンへのアルモドバル監督の説明はなく終わりました。
(余録:右写真から)
女優ペネロペ・クルスは、ペドロ・アルモドバル監督の映画に出演した時が、一番魅力的です。
スペイン映画の名監督とスペインを代表する美人女優が、4本の映画を撮れば、恋仲になりそうなものですが、この二人いつもアツアツながら浮いた話はありません。
アルモドバル監督は、ゲイを公表していますが、映画の撮影現場で数多の美人女優に囲まれながら女性に興味がないとは、モッタイナイ話です。