J・エドガー シネマの世界<第164話>
1993年映画「ギルバート・グレイプ」(主演ジョニー・デップ)で知的障害のある弟アーニーを演じたレオナルド・ディカプリオが、あまりにすばらしく、ついその時の演技と比べてしまいます。
イーストウッド監督が、「J・エドガー」の脚本をダスティン・ランス・ブラック(1974~ 「ミルク」の脚本家)にオッファーしたのは、さすが名監督です。
脚本を書いたダスティン・ランス・ブラックもまた同性愛者なので、イーストウッド監督は、J・エドガーの心の深淵を心理描写するうえで欠かせないと思ったのでしょう。
映画は、FBIの創始者で初代長官を半世紀にわたって続けたJ・エドガー・フーヴァーの特異な生涯を描いた興味深い人間ドラマです。
1924年にFBI長官に就任してから1972年に亡くなるまで、なんと48年間、8人の大統領に仕え、陰でアメリカ国家を実効支配した男の知られざる闇の部分を描いています。
フーヴァー長官は、1922年のソ連誕生によりアメリカ国内で広まった社会主義運動や過激な労働運動をテロ活動として弾圧、1932年の幼児誘拐事件、1960年代に活発となった黒人公民権運動など犯罪防止を理由に、捜査対象を広げ自らの価値観に相容れない対象者には、国家秩序を破壊する犯罪者として容赦ない捜査活動を行ないました。
議会にもFBIの権限を大幅に拡大する法律(犯罪捜査盗聴の承認)を認めさせました。
J・エドガーが、若いころ働いた国会図書館の膨大な蔵書をインデックス化、書籍検索の大幅な時間短縮を成し
J・エドガーは、生涯独身でしたが、一度だけプロポーズし断られた女性を私設秘書(役をナオミ・ワッツ 1968~)としてFBI組織内の自分に関わるすべてを管理‥‘極秘ファイル’の管理も含め、一切彼女に任せました。
さらに彼は、新任捜査官のクライド・トルソン(アーミー・ハマー 1986~)を副長官に抜擢、彼と生涯にわたり友情以上の交際を深めていきました。
ケネディ大統領暗殺、弟のロバート・ケネディ司法長官暗殺、キング牧師暗殺などアメリカ社会の汚点とも言うべき歴史の暗部(暗殺された有力者たちとフーヴァーFBI長官との暗闘)を想像しながら、この映画を見るとさらに興味深く楽しめると思います。
(参考)上の白黒写真は、ジョン・エドガー・フーヴァーFBI長官(右)とクライド・トルソン副長官(左)のツーショット、二人の靴にご注目ください。