ブログトップ | ログイン

心の時空

yansue.exblog.jp

a day in my life

ル・アーブルの靴みがき  シネマの世界<第146話>

フィンランドの映画監督で脚本家・製作者・映画館経営者というアキ・カウリスマキ(1957~)の新作「ル・アーブルの靴みがき」(Le Havre、フィンランド・フランス・ドイツ合同製作、2012年公開、予告編こちら)を見ました。
a0212807_2122768.jpgアキ・カウリスマキ監督は、不思議な映画を撮る監督です。
「ル・アーブルの靴みがき」もまた不思議な映画でした。
フランスの港町ル・アーブルを舞台に、貧しい靴みがきの老人が、アフリカから密航して来た少年を匿(かくま)い、少年の母が、暮らす(不法滞在している)ロンドンへ密出国させるまでの短い物語(上映時間1時間33分)で、紙芝居のように分かりやく、人情味溢れる‘美しいおとぎ話’でした。
映画に登場する人物たちは、皆な社会の底辺にいる人たちで、港町ル・アーブルの裏町でお互い助け合いながら貧しくも慎ましく暮らしている人たちです。
映画のストーリーは、美しいおとぎ話でも、映画のテーマは、いまヨーロッパ全体を覆うシリアスな社会問題(密航による不法滞在・難民問題)で、カウリスマキ監督の内省する精神とヨーロッパ社会に向けるシニカルな視点は、厳しく、その表現もリアリズムに徹しています。
a0212807_219957.jpg世知辛い現代社会にあって個人的な同情と憐れみ、さらに献身的な行為(チャリティ)だけで社会正義と意識改革という奇跡を起こすには、どうしたら良いのか、カウリスマキ監督は、考えに考え「ル・アーブルの靴みがき」の登場人物には、皆な“心底からの善人”を集め、何が何でもハッピーエンド(幸せな結末)にするという荒技の演出をしました。
a0212807_21121387.jpg近年の映画には、手持ちカメラによる撮影が、多い中で、この映画の監督・脚本家・製作者であるカウリスマキ監督と彼の盟友撮影監督ティモ・サルミネンは、真ん中にカメラをドンと据え、登場する人物たちの顔(というより視線)を大きくゆっくりと映して行きます。
新しい映画なのに、まるで古い映画を見ているようなシークエンス(カットの連続)で、貧しくても人情味厚く、いa0212807_21131084.jpgつもユーモアや笑顔を忘れない人たちが、登場する映画でした。
カウリスマキ監督は、インタヴューに答えて「自分が、シニカルで懐疑的になればなるほど、作る映画は、ソフトになっていく。 かつてのよき時代に対するノスタルジーを感じるし、自分の映画のキャラクターを愛さずにはいられない。 だから彼らに不幸な思いをさせることは忍びない。」さらに「ユーモアa0212807_21152283.jpgは、僕を正常に保ってくれる唯一の要素、この世界で僕を笑わせてくれるものはとても少ない。」とコメントしています。
カウリスマキ監督は、映画での大袈裟なアクションや過剰なセリフまわしを嫌い、登場人物(俳優は常連が多い)のセリフは少なく、穏やかな表情と視線それに調和した天性のユーモア精神によって、クールな人間讃歌を映像で表現しています。
a0212807_21162143.jpg
映画のラスト、満開の桜のショットは、旧い日本映画を見ているような懐かしいシーンでした。
この「ル・アーブルの靴みがき」は、アキ・カウリスマキ監督の小津安二郎監督(1903~1963)へのオマージュ(‘小津調’への敬意)ではないかと私は勝手に想像しました。
上写真:アキ・カウリスマキ監督(右)とティモ・サルミネン撮影監督(左)のコンビ
by blues_rock | 2013-04-01 00:00 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)