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心の時空

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彼女が消えた浜辺  シネマの世界<第138話>

イラン映画の鬼才アスガル・ファルハーディー監督(1972~)の2009年作品「彼女が消えた浜辺」(原題:About Elly)も評判に違わぬ秀作映画でした。
この映画でアスガル・ファルハーディー監督は、監督・脚本・製作を一人で担い、ベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を受賞しました。
彼女が消えた浜辺  シネマの世界<第138話>_a0212807_20354539.jpg
ファルハーディー監督については、すでにシネマの世界<第116夜>「別離」で紹介しましたが、「彼女が消えた浜辺」は、その「別離」の前作になります。
日本で耳にするイランの情報は、原油埋蔵量世界第3位(10%)、イスラム教シーア派原理主義の国とか、1979年のホメイニ原理主義革命以降、反イスラエル闘争組織ヒズボラやハマースへの支援、近年では原子力発電彼女が消えた浜辺  シネマの世界<第138話>_a0212807_2045539.jpg所にからむ核開発疑惑など国家レベルのきな臭いものばかりでイラン庶民の風俗や暮らしぶりが、報道されることは少なく、私たちの知識や理解もイランに関わる仕事をしている人以外あまりないようです。(イランの首都を知っている人はどれくらいいるのでしょうか?)
ファルハーディー監督の2本の映画「彼女が消えた浜辺」(2009)と「別離」(2011)を通して、私もイラン市民(映画は中産階級の家族を描いています)の暮らしが、少し分かりました。
「彼女が消えた浜辺」のストーリーは、テヘランからほど近いカスピ海沿岸のリゾート地にセピデー(ゴルシフテ・彼女が消えた浜辺  シネマの世界<第138話>_a0212807_20454326.jpgファラハニ)たち3組の家族とセピデーの同僚でエリ(タラネ・アリシュスティ)という女性が旅行でやって来ました。
エリは、目的地に到着するなりテヘランに残した病気の母親が、気になるからと帰りたいと言い出しました。
セピデーは、彼女をなだめ週末を自分たち家族と一緒に楽しもうと説得しますが、帰りたがる理由は、どうやら母親の病気ではなさそうでした。
それぞれ借りた別荘のそうじを役割分担して滞在準備をしている時、海岸で遊んでいた幼い子供の一人が、波にさらわれました。
彼女が消えた浜辺  シネマの世界<第138話>_a0212807_20531717.png幼い子の泣き叫ぶ声で親たちは、子供の海難事故に気付きました。
親たちの必死の救命で溺れかけていた子供は助かりましたが、子供たちと凧あげをしていたエリの姿が見えません。
エリの携帯電話と荷物は、室内に残されていました。
エリは、溺れた子供を助けようとして波にさらわれたのか、地元警察のダイバーによる海の捜索でも彼女は見つかりませんでした。
何も言わずこっそりテヘランに帰ったのかもしれない‥子供を救おうとして溺死したと考えたくないセピデーの家族たちは、自分たちに言い聞かせます。
彼女が消えた浜辺  シネマの世界<第138話>_a0212807_20465225.jpgセピデーの夫は、エリのこと(About Elly)について妻に友だちなら当然知っていそうなことを質問しますが、セピデーは、エリについてあまり知りませんでした。
エリは、どこへ行ったのか?本当に波にさらわれたのか?‥エリには婚約者がおり、彼もまたエリをずっと探していました。
エリが、消えてから3組の夫婦は、次第にお互いの感情を露わにして諍(いさか)うようになりました。
ファルハーディー監督の卓越した演出は、この映画を次第にミステリアスにし、同時に普遍的な人間ドラマ(心理劇)として見る者をぐいぐい映画に惹きつけて行きます。
「エリは、どこへ消えたのか?」映画は、真相を何も語らず、見る者の気持ちを不安にさせたまま終わります。
サスペンス映画としても秀作なので映画好きの方にお薦めしたい作品です。
by blues_rock | 2013-03-08 00:18 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
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