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心の時空

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危険なメソッド  シネマの世界<第102話>

デヴィッド・クローネンバーグ監督(1943~、カナダ)の新作映画「危険なメソッド」(2011年製作)を見ました。
クローネンバーグ監督の作品では、「ザ・フライ」(1986)・「クラッシュ」(1996)・「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(2005)などが、私の印象に残っています。
今回の映画「危険なメソッド」の原作タイトルは、「A Most Dangerous Method」、直訳すると「最も危険なメソッド(研究方法)」となり、危険なメソッド  シネマの世界<第102話>_a0212807_11552297.jpg映画は20世紀初頭のオーストリア・スイスを舞台に、当時まだヨーロッパ上流階級を支配していた禁欲的性の概念がもたらす精神的抑圧をテーマにしています。
いまでは、“精神分析”の創始者にして哲学者として有名なフロイトとフロイトの後継者にしてライバルで“心理分析”の大家ユング、師フロイトに学びながら臨床心理学・分析心理学を確立していくユングとの師弟確執、精神科医ユングの患者(統合失調症・強度のヒステリー症)にして愛人であったザビーナ・シュピールラインとの壮絶なエロス、性的関係をもった医師と患者の葛藤‥「精神科医が精神を病み、精神を病んだ者が精神科医を目指す」というフロイト=ユング=ザビーナ・シュピールラインという実在人物をめぐる史実に基づいた映画です。
映画のストーリーは、この三人を軸にしてシリアスにドラマチックに展開していきます。
事実、ユングは、統合失調症で強度のヒステリー症でもあったザビーナを‘メソッド’として統合失調症の解明と治療、ヒステリーの治療と無意識の解明を行ないました。
危険なメソッド  シネマの世界<第102話>_a0212807_11555156.jpgサビーナは、主治医で愛人のユングと別れ、フロイトの住むウィーンに行き彼の指導を受け、フロイトの‘タナトス(自己破壊による死の欲動)概念’をもとに、ユングとの恋愛関係を分析、それを研究論文にまとめ「生成の原因としての破壊」を発表し精神分析医になりました。
映画では、精神分析の歴史に偉大な足跡を残した精神分析学者・哲学者フロイトと心理分析学者ユングの師弟関係と友情の絆が、精神病患者ザビーナをめぐる対立と葛藤で決別した1912年、フロイト56才、ユング37才までが、描かれています。
危険なメソッド  シネマの世界<第102話>_a0212807_11563363.jpgユング役のマイケル・ファスベンダー(1977~)、フロイト役のヴィゴ・モーテンセン(1958~)、ザビーナ役のキーラ・ナイトレイ(1985~)という演技力のある名優たちの競演が、オペラを見ているように圧巻で、とくに統合失調症のザビーナが、激しいヒステリーの発作を起こした時に見せる表情‥身体を硬直させ目をむき、下あごを突き出し、顔を引き攣らせて、恐怖と不安、怒りと疑念、苛立ちと憎しみの感情を表わすキーラ・ナイトレイの演技の凄さは、必見です。
シリアスな映画ながらドラマチックで大変おもしろく、私が今年見た映画の中でも5本の指に入ります。
フロイトは、精神を抑圧し、精神の仲にある性的な考え(領域)を否認することは欺瞞であると論じています。
危険なメソッド  シネマの世界<第102話>_a0212807_11572168.jpgフロイトは、「幸福になる方法は、自分で実験してみなければ分からない。」さらに「生きる意味や価値を考え始めると、我々は、気がおかしくなってしまう。生きる意味など、存在しないのだから。」とも言っています。
「リビドー(強い衝動・欲求・欲望・本能を意味するラテン語)」の抑制は、精神の自由を奪う、「リビドー」は、エロス(生の本能)のエネルギーであると定義しました。
“映画数寄”の方に、この秋お薦めしたい秀作映画です。
by blues_rock | 2012-11-04 00:02 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
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