ニワトリはハダシだ シネマの世界<第95話>
森崎東(1927~85才)監督・脚本の2004年作品で、同年のベルリン映画祭では、ドイツの映画ファンから絶賛されました。
映画は、知的身障者である少年サムを主人公に、彼を取り巻くヒューマンドラマながら日本社会の底辺にある諸問題を暴き、社会問題の恥部をタブーとしないで大胆に描いています。
反体制を掲げ、タブーに挑戦し続ける森崎監督の面目躍如で、ベルリン映画祭の期間中どの回も満席という見事な成功を納めました。
貧しいながらも社会の底辺で一生懸命に生きる庶民の喜びや怒り、暮らしの哀歓を見つめ続けてきた森崎監督24本目の作品が、名作「ニワトリはハダシだ」です。
映画の舞台は、京都府舞鶴港‥入江を挟んで家屋が密集し、海岸に沿って独特の路地を形成している舞鶴ならではの美しい景色の中に、日本人の郷愁を誘う銭湯や昔ながらの商店街、伝統の祭り(火祭り)など日本の原風景が情感豊かに描かれています。
舞鶴港は、戦前まで軍港として栄え、戦後は一転して中国大陸・朝鮮半島・シベリアからの引揚げ港として哀しい歴史があり、今も在日朝鮮人や外国人労働者が、数多く暮らしています。
映画のストーリーは、知的身障者である15才の少年サム(浜上竜也)と潜水作業夫のチチ(原田芳雄)の日常の
偶然、サムが、暴力団組織の所有するベンツの中にあった検察庁機密費に関する裏帳簿の数字を憶えたことから、サムは、中央政界を巻き込んだ検察庁の汚職事件に巻き込まれ警察に追われることになります。
何も知らないサムは、普段どおり天真爛漫なのですが、サムを追う刑事たち、暴力団組織のヤクザたち、サムを逃がそうとする家族と養護学校の先生などサムのまわりは、彼の敵味方入り乱れて大騒ぎとなりました。
粗野で乱暴なチチに愛想尽かし幼い妹をつれ別居中の在日朝鮮人のハハ(倍賞美津子)、サムの在日朝鮮人祖母(李麗仙)、養護学校の先生(映画初出演の肘井美佳)、検察庁の機密費汚職を告発した東京地検の検事(柄本明)、汚職の証拠資料を偶然見たサムを調べる新米刑事(加瀬亮)、養護学校の先生の父親である刑事部長(石橋蓮司)と心を病んで自殺する母親(余貴美子)など新人・ベテランそれぞれ個性豊かな俳優陣が、ペーソスを滲ませながらユーモアたっぷりに演じています。