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心の時空

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夏の終止符  シネマの世界<第81話>

ロシア映画「夏の終止符」(2010)は、日本語のタイトルを見るとセンチメンタルな恋愛映画のような印象を受けますが、なかなかどうして硬派の不条理劇で秀逸な映画でした。
原題を直訳すると「私はこの夏をどう終えたか」となり映画の舞台は、北極海にあるロシアの孤島です。
映画の登場人物は、北極圏の氷の海に浮かぶ孤島の放射能観測所で放射能の定時観測をしている二人の男だけ、あとは北極熊(白クマ)と映画の最後のほうに少し登場する放射能防御マスクを被った救援隊でした。
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主人公は、放射能測定のベテランで中年男セルゲイと今どきの典型的なモラトリアム若者パーシャの二人、この二人の人間模様が、北極圏の壮大な自然をバックにまるで‘二人舞台’のように描かれています。
映画は、この価値観の違う二人の男が、大自然の中で繰り広げる対立(格闘や銃の撃ち合い)と共存(一緒に食事をしたり仲良くサウナに入ったり)です。
私は、この映画を見るまでロシアのアレクセイ・ポポグレブスキー監督(1972~)を知りませんでした。
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ポポグレブスキー監督が、映画「夏の終止符」を撮ったとき、まだ38才と若く、この映画で見せた演出センスの良さと構成のうまさに、これからのポポグレブスキー監督作品も楽しみになりました。
氷の海に囲まれた孤島で不条理な‘二人舞台’を演じたロシアの二人の俳優がすばらしく、2010年ベルリン国際映画祭で二人とも銀熊賞(主演男優賞)を受賞したのも頷けます。
この年、金熊賞(最優秀作品賞)を受賞したのが、トルコのセミフ・カプランオール監督「蜂蜜」でした。
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両作品とも良質な映画で、甲乙付け難くアレクセイ・ポポグレブスキー監督は、少し不運だったかもしれませんが、撮影で同映画祭の銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞しましたので納得しましょう。
映画に音楽はなく、自然の風の音、波の音、二人の男の生活する音が、映像の美しさをリアルにしていました。
旧ソ連時代、ロシアは、自国の核廃棄物を北極海へ極秘投棄してきました。
映画は、実直に放射能の定時測定行なう中年男セルゲイ(セルゲイ・プスケパリス)とヘッドホンで音楽を聴きな
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がら戸外に放置された旧い原子力装置に近づく能天気な若者パーシャ(グレゴリー・ドブリギン)との衝突や二人の諍(いさか)いを静かに映していきます。
映画のラスト、セルゲイは、自分を迎えにきた船にパーシャを乗せることにしました。
別れの時、セルゲイは、パーシャを長く、実に長くハグし別れました。
セルゲイは、自分の人生が、もはやここを置いて他にないことを知っていました。
by blues_rock | 2012-08-25 00:46 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
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