ブログトップ | ログイン

心の時空

yansue.exblog.jp

a day in my life

灼熱の魂  シネマの世界<第79話>

映画「灼熱の魂」は、カナダに亡命したレバノン人の劇作家ワジディ・ムアワッド(演出家・俳優、1968年ベイルート生まれ)の戯曲「焼き焦げる魂」をカナダの映画監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが、シナリオを書き映画化しました。
2011年12月、日本公開され一部の熱烈な映画ファンの間で、傑作映画と高く評価されました。
a0212807_11472026.jpg映画「灼熱の魂」は、見る者の魂も‘人間の業火’に焼かれていくような、胸に迫る強烈な映画で、レバノンの宗教対立と民族紛争をヨコ糸、一人のレバノン人女性の人生をタテ糸に、彼女の過酷なオイディプス王の母親のような運命が描かれています。
宗教対立と民族紛争は、それまで隣人として仲良く暮らしてきた社会の中に、イガミ合いと争いを持ち込んでいきます。
不寛容になった人々の心は、憎悪と暴力の連鎖を生み、とくに隣人が他民族で異教徒である場合、憎悪はさらに広がり、他民族への理不尽な暴力行為が、民族間の日常的な敵対となり暴力の連鎖となっていきます。
中東のパレスチナ、レバノン、最近では東欧のボスニアなど、憎悪と暴力の連鎖が引き起こした内戦により、多くの貧しい善良な市民・村人たちが、家族を失い、家を焼かれ、故郷を追われ、難民となって異郷の生き地獄で暮らしています。
今でも連綿と続く、こうした人間の残忍な非業の行為が、ギリシャ悲劇にも似た人間の過酷な不幸を生みだし、そのおぞましさに戦慄します。
「灼熱の魂」は、アカデミー賞外国語映画部門にノミネートされ、その年の同部門受賞作「未来を生きる君たちへ(原題:復讐)」と最後まで受賞を争いました。
a0212807_11504739.jpg
映画のストーリーと映像は、見る者にあまりにもリアルで、その理不尽さに胸が苦しくなります。
映画の主人公は、レバノン人のキリスト教徒であった初老の女性で、祖国レバノンの内戦ですべてを失い、フランスに亡命したものの拒否されカナダに逃れ、子供(双子)を育てました。
a0212807_11514652.jpg彼女は、二人の子供も理解できないくらい、長い間社会に背を向け暮らしましたが、ある日突然亡くなり、映画はここから始まります。
彼女もまたイスラム教徒原理主義とキリスト教右派のシバノン内戦の被害者で、憎悪と暴力の連鎖が、彼女に過酷な運命を強いていました。
プールで遭遇した男からすべての事実を直感し、恐ろしい真実に放心したまま虚脱状態となり、3通の遺書を残し死んでしまいました。
a0212807_11524663.jpg1通は二人の子供へ、1通は二人が知らない兄へ、1通は二人が会ったことのない父へ宛てたものでした。
二人の子供へ宛てた遺書には、「どこから物語を始める?あなたたちの誕生?それは恐ろしい物語。あなたたちの父親の誕生?それはかけがえのない愛の物語。あなたたちの物語は約束から始まった。怒りの連鎖を断つために。あなたたちのおかげで約束は守られ、連鎖は断たれた。やっとあなたたちを腕に抱きしめ、子守歌を歌い、慰めてあげられる。共にいることが何よりも大切‥、心から 愛している。」と書かれていました。
by blues_rock | 2012-08-20 00:51 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)