ブログトップ | ログイン

心の時空

yansue.exblog.jp

a day in my life

海炭市叙景  シネマの世界<第71話>

北海道の架空の街、海炭市(函館がモデル)で暮らす人たちが、映画の主人公です。
a0212807_12543642.jpg熊切和嘉監督(1974~)は、寂れていく北海道の港町、海炭市の日常風景の今を、淡々とスケッチするように映像に撮っています。
熊切監督は、そこで暮らす家族の人間模様に余計な口をはさまず、それぞれの家族が背負った現実を冷静にとらえ、どの家族にも同情しないが、やさしい眼差しで「海炭市叙景」を映画にしました。
映像(カメラ)の色調を抑えたトーンは、原作者佐藤泰志(1949~1990自死、享年41才)の心情を映しているようで、彼の空虚な孤独感が、じわりじわりと見ているこちらの胸に沁み込んできます。
「海炭市叙景」の映画化は、佐藤泰志の高校時代の友だちや彼の小説の熱心なファンが中心となり、2009年函館で映画製作実行委員会が、結成され実現しました。
実行委員会は、北海道出身の熊切和嘉監督を迎え、熊切監督は地元市民ほか北海道の人たちに映画出演を要請し、美術・広報宣伝スタッフさらに製作費のカンパなど多くのボランティアに支えられて、映画「海炭市叙景」は、2010年に完成しました。
a0212807_12561852.jpg佐藤泰志は、東京で何度も芥川賞ほか文学賞の候補になりながらが、1981年家庭の事情で故郷の函館に帰り、そこで家族を養うために働きながら小説を書いていました。
しかし自律神経失調症など精神の不調を訴えて治療のために服用していた精神安定剤に頼りながら1990年に亡くなるまで多くの短編小説を書きました。
彼の絶筆となった短編小説18編の中から5編をオムニバス映画(2時間32分)にし、この5編に登場する人たち(家族)の人生をつないでいくのが、スクリーンに時どき登場する海炭市(函館市)内を走る路面電車です。
「海炭市叙景」の脚本を熊切監督の盟友宇治田隆史(1975~)が、担当しています。
オムニバスの最初は、冬の海炭市が舞台で不況にあえぐ造船所に勤めリストラされた兄とその妹の二人が、第一話の主人公です。
大晦日の夜、兄妹で元旦の初日の出を見ようとロープウエーで山に登るものの、帰りのロープウエー代金が1人分しかなく兄は、妹だけロープウエーに乗せ、自分は冬の山を歩いて下山途中に行方不明になりました。
a0212807_135426.jpg兄役の竹原ピストルと妹役の谷村美月が、兄妹(きょうだい)を好演、お互いを思いやり暮らす兄妹の愛情を切なく演じていました。
第二話では、老婆と孫の交流、街の再開発のため市から立ち退きを迫られている老婆を市役所に勤める孫は、再三立ち退きに応じるよう説得しますが、老婆は頑として応じませんでした。
この老婆を演じた地元出演の中里あきの自然な存在感(これが実にすばらしい)が、見事でした。
a0212807_1355062.jpg第三話は、プラネタリウムで働く覇気のない中年男と派手な服を着て夜の仕事に出かける妻、両親とは口もきかない中学生の息子三人のギスギスした家族の物語です。
第四話では、プラネタリウムに通う少年と若い父親が主人公、少年の父親は、街の小さなプロパンガス店の社長ですが、プロパンガス事業の不振で手がけた浄水器の販売も勝手が違いうまく行きません。
愛人がいる夫は、嫌味をいう妻に冷たく、、妻はその腹いせに夫が溺愛する息子を虐待します。
a0212807_1372361.jpgある日夫は、少年(息子)の体にアザを見つけ、妻が虐待していることを知り、妻に激しく暴力をふるいます。
逆恨みした妻は、夫の留守中、さらに少年を虐待するという暴力の連鎖に見ていて何ともやりきれなくなるシーンです。
第五話は、都会での夢破れて故郷の海炭市に帰り、プロパンガス店社長の運転する車に同乗し一緒に浄水器の営業をしている青年が、主人公です。     
彼は、父に田舎に帰ってきたことを知らせず会うことを避けていましたが、路面電車の運転手である父は、電車の窓から都会にいるはずの息子の姿を見ていました。
a0212807_13233793.jpg残り少ない金で入ったバーで、故郷の女たちの嬌声と酔っぱらってケンカをする男たちをただ眺めている青年の虚ろな気持ちが殺伐としています。
彼は、偶然亡き母の墓で父と会いますが、親子は無言のまま別れました。
故郷の海炭市を発った彼は、連絡船のテレビニュースで‥初日の出を見に行き下山の途中、行方不明になった造船所元工員(上写真は兄の下山をロープウエー駅で待つ妹)の遺体が山で発見されたこと、下山の途中に落下事故に遭ったことを聞き、船のデッキに出て遠ざかっていく海炭市のその山をずっと眺めていました。
by blues_rock | 2012-06-27 00:25 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)