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心の時空

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a day in my life

9日目  シネマの世界<第69話>

a0212807_04412.jpg日本の映画館で上映されなかったドイツ・ルクセンブルク・チェコ共同制作の映画「9日目(The ninth day)」を紹介します。
2004年の公開ですが、日本では2005年に東京で開催のドイツ映画祭で上映されただけで、一般公開されませんでした。
私は、‘おひとり様ホームシアター’で見ましたが、すばらしい映画でした。
未公開の理由は、分かりませんが、「神の存在と人間の本質」や「信仰心と良心」という永遠にして普遍のテーマを映画にした時、一神教の信仰をもつキリスト教徒(同様にイスラム教徒もユダヤ教徒)の宗教観(=神との契約)を私たち日本人が理解することは容易ではありません。
歳時記を見てれば分かるとおり、いまでも私たち日本人の精神風土には、八百万(やおよろず)の神々がいて、神との契約もなく賽銭箱に小銭を入れて柏手(かしわで)を打ち、過去への反省もなく水に流し次の願いを八百万の神に祈る(お寺では仏に願う)国民に信仰(宗教観・哲学)に命を懸けるなど馴染まないのかもしれません。(注:江戸時代の隠れキリスタンは例外)
日本でこの映画を配給しても観客は少なく、興行収入を考えて営業的に合わないと判断したのかもしれませんが、そんな理由だとしたら質の良い映画を見たいと思う映画ファンは、映画館に行かなくなるでしょう。
それでも、この秀作映画を岩波ホールすら上映していないのが、私には不思議でなりません。
a0212807_013368.jpg主役のルクセンブルグ人クライマー神父を演じたウルリッヒ・マティス(1959~)が、実にすばらしく、実在の本人が出演しているのではないかと思えるほど真に迫る存在感がありリアリティ溢れる演技でした。
映画の舞台は、1942年ナチスドイツ支配下のドイツとルクセンブルグです。
ドイツ、ミュンヘン郊外の強制収容所に、ナチスドイツが支配したヨーロッパの国々から反ナチス・反ヒットラーとして逮捕・拉致された聖職者とアーリア民族以外の神父や牧師たちが、次々に移送されて来ました。
ナチスドイツは、征服したヨーロッパ諸国の教会を懐柔し、その国の人々を支配するために利用していました。
a0212807_015096.jpgクライマー神父は、パリで反ナチスの活動をして逮捕され強制収容所に収監されていたのでした。
強制収容所での暮らしは、生き地獄でナチスによる抑圧と容赦のない虐待に、強い信仰心をもつクライマー神父さえも心が揺らぎ「神の存在」をつい疑うほどでした。
ある日突然、クライマー神父に‘九日間の休暇’が与えられ、ルクセンブルグへ帰されました。
ルクセンブルグで彼を出迎えたのは、ゲシュタポ(ナチスの秘密警察)でした。
クライマー神父は、彼らから“究極の選択”である特命を受け、失敗したら生き地獄の強制収容所へ戻す、もし逃亡したら収容所にいる聖職者全員を処刑すると脅迫されました。
a0212807_016221.pngそして、ナチス親衛隊の将校からクライマー神父へ慇懃(いんぎん)な口調で「ドイツ占領下にあるルクセンブルグの大司教が、ナチスへの協力を拒否している。大司教の信頼厚いクライマー神父が、大司教を説得し転向させ、ドイツに協力させよ。猶予期間は9日だ。」と命令されました。
クライマー神父は、ローマ法王が、ローマ・カトリック教会管区の聖職者を次々に逮捕され強制収容所でひどい虐待を受けていることに救いの手を伸べないことに不満がありました。
映画の中で、神父と親衛隊将校が、対話するカタチで「キリストを裏切ったユダ」の論争をします。
a0212807_016586.jpg神父は「自分に信仰と良心を捨て、主イエスを裏切ったユダになれと言うのか?」と親衛隊将校に言いました。
神学校出身の将校は「イエスを裏切ったユダがいたからこそ、イエスの予言が証明された。ユダこそが主の一番忠実な使徒である。」と烈しく反論します。
クライマー神父を説得できなかった場合、彼は左遷される運命にありましたが、言葉に出さないものの神父の強靭な信仰を認め、決して殺そうとはしませんでした。
親衛隊将校役のアウグスト・ディール(1976~ドイツの俳優)が、美男子でナチス親衛隊将校をシンボライズしたような演技はすばらしく、神父役のウルリッヒ・マティスとは、また一味違った存在感がありました。
a0212807_027951.jpg余談ながら、今後の活躍が楽しみな若手俳優の一人です。
クライマー神父は、自分の良心に従い大司教の説得に協力せず、自ら期限の9日目に再び強制収容所に戻って行きました。
生き地獄の強制収容所に帰ってきたクライマー神父を迎える餓死寸前の聖職者たちの顔が、安らいでいて印象的でした。
ドイツを代表する映画監督フォルカー・シュレンドルフ(1939~)は、1979年の「ブリキの太鼓」でもナチスドイツ時代の暗く悲惨な実話を映画化しました。
by blues_rock | 2012-06-23 00:34 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)