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心の時空

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名優緒形拳(復讐するは我にあり)  シネマの世界<第48話>

稀代の名優緒形拳が亡くなり早三年、彼の立派な役者人生が偲ばれます。
a0212807_1244379.jpg享年71才、今しばらく彼のリアリズム溢れる演技を見たかったと惜しまれます。
彼は、眼の表情と声帯を使って、彼の役である悪人または善人それぞれの喜怒哀楽を演じ分け情感を表現できる役者でした。
映画「復讐するは我にあり」(1979)は、今村昌平監督が、緒形拳を主演に作家佐木隆三の直木賞受賞作品をドキュメンタリー手法の演出で映画にしました。
a0212807_12444376.jpg緒形拳演じる主人公のクリスチャン・詐欺師・凶悪連続殺人犯(5人を殺害し死刑)の役は、彼の迫真の演技が圧巻で、共演の三国連太郎(父親役)・倍賞美津子(妻役)の名演と相まって、主人公に内在する虚無と凶暴さが、見事に表現された名作でした。
映画タイトル「復讐するは我にあり」の我とは、新約聖書にある言葉で「我とは神」のことであり、凶悪連続殺人犯の主人公に聖書は「汝ではない」と教えていました。
この聖書の言葉に対しニーチェは、著書「この人を見よ」の中で「善悪において創造者(神)になろうとするものは、まず破壊者でなければならない。そして一切の価値を粉砕せねばならない。」と虚無(ニヒリズム)を説きこの映画のテーマの深さを思いました。
a0212807_12461167.jpgこの映画は1979年、4つの映画賞を受賞しています。
1965年緒方拳28才の時、NHK大河ドラマ「太閤記」の主役である豊臣秀吉役が決まらず、当時まったく無名であった緒形拳に‥新国劇にサルに似たヤツがいるとのウワサに白羽の矢が立ち、大抜擢されました。
そして織田信長役の高橋幸治と互角の演技で一躍有名になりました。
「ウィキペディア(Wikipedia)緒形拳」に出演した数々の映画やドラマのリストが掲載されています。
改めてリストの作品を見ると、どの役もはまり役といっていいくらい適役で、彼の演技者としての天性の才能を感じます。
余談ながら1993年のTVドラマ「ポケベルが鳴らなくて」は、携帯電話もメールもない時代‥相手を呼び出すために利用されたポケットベルが、恋愛の手段(道具)として象徴的に描かれ、若い女性からの連絡にポケットベルが鳴り、その音に翻弄される真面目な中年男の役を緒形拳は好演していました。
a0212807_12465525.jpg若い女性との恋にときめき、呼び出しのポケットベルに戸惑いながらも、心が揺れ動く不器用な中年男の姿は、緒方拳ならではの名演技で見事でした。
ドラマ自体より緒方拳演じる若い女性との恋に不器用な中年男の存在感がすばらしく、私の印象に残りました。
2006年亡くなる2年前の主演映画「遠い散歩」(モントリオール国際映画祭グランプリ受賞作品)も自然体ながら渾身の演技ですばらしい映画でした。 (上写真:長い散歩の1シーン)
a0212807_1248193.jpg一人の幼い少女と孤独な老人との旅(長い散歩‥映画では誘拐事件として展開)を通して、幼と老、二人の心の交流を清々しい映像で撮った映画でした。
映画のテーマ曲としてUAが歌う井上陽水の名曲「傘がない」も味わい深く、聴きごたえがありました。
俳優緒形拳と映画監督今村昌平の二人については、2011年11月29日「シネマの世界‥楢山節考(1958年と1983年)」で書きましたので併せてご覧いただけると光栄です。
稀代の名優緒形拳のご冥福を祈ります。
by blues_rock | 2012-03-04 12:42 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)