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心の時空

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a day in my life

智恵子抄

人に(いやなんです)   詩:高村光太郎  
a0212807_23243175.jpgいやなんです
あなたのいつてしまふのが
花よりさきに実のなるやうな
種子よりさきに芽の出るやうな
夏から春のすぐ来るやうな
そんな理屈に合はない不自然を
どうかしないでゐて下さい
型のやうな旦那さまと
まるい字をかくそのあなたと
かう考へてさへなぜか私は泣かれます
小鳥のやうに臆病で
大風のやうにわがままなa0212807_23251845.jpg
あなたがお嫁にゆくなんて
いやなんです
あなたのいつてしまふのが
なぜさうたやすく
さあ何といひませう まあ言はば
その身を売る気になれるんでせう
あなたはその身を売るんです
一人の世界から
万人の世界へ
そして男に負けて
無意味に負けて
ああ何といふ醜悪事でせう
まるでさう
チシアンの画いた絵が
鶴巻町へ買物に出るのです
私は淋しい かなしい
何といふ気はないけれど
ちやうどあなたの下すつた
あのグロキシニアのa0212807_23322831.jpg
大きな花の腐つてゆくのを見る様な
空を流してゆく鳥の
ゆくへをぢつとみてゐる様な
浪の砕けるあの悲しい自棄のこころ
はかない 淋しい 焼けつく様な
それでも恋とはちがひます
サソタマリア
ちがひます ちがひます
何がどうとはもとより知らねど
いやなんです
あなたのいつてしまふのが
おまけにお嫁にゆくなんて
よその男のこころのままになるなんて

高村智恵子(1886~1938没、享年 52才)が、詩集「智恵子抄」のモデルで、彫刻家であり詩人であった高村光太郎の妻として智恵子の人生はありました。
智恵子は、高村光太郎と知り合った時、女流画家を目指して油絵を描いていました。
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病弱であった彼女は、結婚後ついに精神分裂症(いまの統合失調症)を発症し、転地療養しますが、49才の時、精神病院への入院を余儀なくされました。
智恵子が手先を動かすのは、精神の治療に良いと聞きた光太郎は、智恵子へのお見舞いに千代紙を持参しました。
a0212807_23354177.jpg智恵子は、折鶴を作り始め、次第に色々な千代紙・色紙・包装紙を小さな手バサミで切り、52才で亡くなるまでの3年間に千数百点という「切り絵」を制作しました。
だんだん無口になっていく智恵子‥正気と狂気の間を行き来しながら制作した「切り絵」でした。
智恵子が、制作したすべての「切り絵」は、ただ光太郎に見てもらうために、でした。
高村光太郎は、智恵子が亡くなった3年後、自らの第二詩集「智恵子抄」を発表いたしました。
愛する妻智恵子を失った夫光太郎の喪失感・寂寥感、そして強い情愛を感じる名詩集です。
by blues_rock | 2011-12-04 02:50 | 詩/短歌/俳句/小説 | Comments(0)