アウェイ・フロム・ハー 君を想う シネマの世界<第27話>
シリアスなテーマですが、秀作でとても初メガホンとは思えないサラ・ポーリー監督の演出の冴えに、彼女の才能を感じました。
きっとこれから、私たちの身近でどの家族(家庭)にでも起きるだろう現実を、認知症の老妻と介護する夫この老夫婦二人の現在(いま)と過去を見つめ、予想される近未来を冷静に淡々と映します。
結婚45年になる老夫婦は、これまでお互い愛し合い、満ち足りた生活を送っていました。
だがある日突然、老妻にアルツハイマー病の症状が表われました。
物忘れが多くなり、日常生活にも支障が出てきた妻を、夫は、じっと辛抱強く見守りますが…自分に起きていることが分からない不安な妻は、自らの意思で認知症介護施設に入り、面会に行った夫も分からなくなりました。
やがて妻は、同じ施設にいるアルツハイマーの初老の男を好きになります。
どんなに仲の良い夫婦でも、お互い相手に少し不満はあるもの、その不満を押さえているのが、一緒に暮した歳月と共通の記憶(思い出)でした。
もしある日突然、その記憶(思い出)が失われた夫婦の間と絆(きずな)は、どうなるのか‥この映画を見ている人に問いかけていました。
病気(認知症)の妻は、やさしく介護し身の回りの世話をする夫をだんだん忘れていき、夫は、もしかしたら妻は、自分の過去の浮気をいま罰しているのではと嫉妬心から疑いました。
45年間の夫婦生活と言う長い人間関係が、壊れて始めていく時、その悲しみの中にそれまで見えなかったお互い人間本来のエゴイズムや相手を深く慈しみ、そして思いやる愛情が分かってくるものかもしれないとメッセージするサラ・ポーリー監督の眼差しがリアルでした。
カナダの美しい冬景色とその冷たい空気が感じられるような透明感溢れる映像と俳優たちの自然で静かな演技、感情移入しないクールな演出は、この才媛監督の次回作を楽しみにしています。
2009年映画「スプライス(結合)」では、女優サラ・ポーリーとして主演し、生体間遺伝子組換え学者を名演していました。