ハート・ロッカー シネマの世界<第24話>
アカデミー賞82年の歴史の中で、初めて女性であるキャスリン・ビグロー監督(1951~)の監督賞受賞も話題となりました。
空前の興行成績で、次世代映画技術を担う3D映像で注目された「アバター」が、下馬評では今年度アカデミー賞を独占するだろうと予想されていました。
しかし視覚効果賞・美術賞・撮影賞の3部門での受賞でした。
この二つの作品の評価の差は、映画を見ると良く判ります。
2004年夏イラクの首都バクダッド市街の瓦礫の中で、イラク駐留アメリカ軍爆弾処理班は、命がけで街中に仕掛けられた爆弾処理に追われています。
爆弾処理班の兵士たちには、いつも死の恐怖があり、極度の緊張を強いられ除隊するまで精神が、安らぐことはありません。
爆弾処理に失敗すると一瞬のうちに多くの死者が出ます‥果てることのない死の恐怖と緊張の連続です。
ハンディカメラを駆使し、主人公に接近し彼と同じ視線で撮影していますので、映像はリアリティに溢れ、緊迫した前線の臨場感が伝わってきます。
アメリカ軍の爆弾処理を眺めるバクダッド市民は、皆な他人事で見物者です。
敵は、市民に紛れいつどこから兵士たちを狙撃してくるか分かりません。
爆弾を処理する兵士たちに、死は常態であり、息もできない緊迫の中で生きていることが不思議な感覚なのかもしれません。
冒頭の「War is drug」(戦争は麻薬)というメッセージの答えは、ラスト5分間のシーンにありました。
キャスリン・ビグロー監督のキレの良い演出(とカット)に、女性のイメージがありません。
ベトナム戦争の「フルメタル・ジャケット」(1987)・湾岸戦争の「ジャーヘッド」(2006)・アフガニスタン戦争の「ある愛の風景」(2004)、そして今回イラク戦争の「ハート・ロッカー」(2009)は、戦争の不条理に翻弄され戦場の理不尽さに、疲弊していく兵士(人間)たちをリアルに画いた反戦映画の四部作と私は思います
(付録)9月11日に紹介しました「Brothers(マイ・ブラザー)」(2009 こちら)は、「ある愛の風景」(2004)のリメイク版ですが、「ハート・ロッカー」に引けをとらない秀作なので映画に興味のある方にお薦めいたします。