白いリボン シネマの世界<第14話>
映画を見る人間の奥に潜む悪魔的な人間の不条理さ・理不尽さを、これでもかと曝(さら)け出させて神経を逆なでし、不快な気持ちにさせる類い稀な映像作家と思います。
「白いリボン」は、美しいモノクロ映像としっかり構成された脚本で奇才ミヒャエル・ハネケ監督の“映画史に残る傑作”と思いました。
ハネケ監督は「カンヌ国際映画祭」で幾多の受賞歴をもち、この「白いリボン」で2009年のカンヌ国際映画祭パルムドール大賞を受賞しています。
映画にストーリーらしきものはなく、第一次世界大戦(1914~1918)前夜の北ドイツの小さなキリスト教戒律の厳格な村が舞台で、村人たちの間で次々に発生する不可解な事件・陰険な出来事・邪悪な行為を映画は淡々と語ります。
モノクロ映像による表現が、一見厳格な戒律で禁欲的な暮らしをしている(ように見える)村人たち‥子供たちさえも、実は「見えないところで何を考え何をしているか分からない」という村の陰鬱な空気感を見事に表現していました。
キリスト教会の牧師であり権威を善とする父親が、自分の子供たちに行なう理不尽な体罰としつけに、絶対服従させられる子供たちのキリスト教原理主義的「純潔と無垢」の象徴が「白いリボン」でした。
クララの全体から発する大人(父親に象徴される理不尽なもの)に対する憎悪・怒り・反抗・悪意やマルティンの眼差しに宿る不信・悲嘆・虚無など、二人のすばらしい表現力に感心しました。
ハネケ監督は、映画の最後まで、村に潜在している大人たち、子供たちの恐怖・不満・反抗・憎悪・暴力・欺瞞などを、これでもかと暴(あば)き出し‥私は映画が終わり、エンドロールに入っても不愉快感で立ち上がれませんでした。